【映画】『思い出のマーニー』の解説!アダルトチルドレンの再生物語としての考察

久々に映画『思い出のマーニー』を見ました。スタジオジブリの作品ですね。

原作は1967年にイギリスで出版された『When Marnie Was There』(Joan Gale Robinson著)です。

個人的な考察ですが、この作品はアダルトチルドレンの再生の物語なのではないかと思います。

『思い出のマーニー』はカウンセリングの世界では有名な作品

『思い出のマーニー』はカウンセリングの世界では、よく知られた作品です。

日本の心理療法の第一人者である、河合隼雄先生の『子どもの本を読む』(1985年)という著作の中でも解説されています。

私は映画だけではなく、原作も読んだことがあります。映画も原作もストーリーそのものが、心理療法になっているように思います。

そのため、心理療法や催眠療法の知識がない人から見ると、意味が分からない部分もあるのではないかと思います。

しかし、これからアダルトチルドレンのカウンセリングを受けようと思っている人は、意味を理解した上で『思い出のマーニー』を見ると役に立つのではないかなと思います。

ここから先はネタバレ要素が満載ですので、まだ見てない人は気をつけてください。

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ネタバレ注意:あらすじ

主人公は、アンナという中学生の女の子です。

幼い頃に両親を事故で亡くしてしまいましたが、養女として大切に育てられています。

しかし、事故だったとはいえ「両親に捨てられた」という意識が強く、それが心の傷になっているのです。そのため友達も上手くつくることができません。

養母のことも遠慮がちに「おばさん」と呼んでいます。

さらに、あるとき養母が市から養育費を貰っていて、それをアンナに隠していることを知り、ショックを受けます。(養母としてはアンナを傷つけたくないという優しさから隠しています)

マーニーとの出会い

喘息を患っていたアンナは、療養のために養母の親戚の家に滞在することになります。そこの家族はアンナに優しく接してくれ、なるべく自由に生活をさせてあげます。

ある日アンナは誰も住んでいない古びた屋敷(通称:湿っ地屋敷)を見つけます。初めて見るはずなのに、なぜか懐かしさを感じます。

そしてそこで、マーニーという同じ年くらいの女の子に出会います。

そのままマーニーと仲良くなるのですが、マーニーは実在しているのか、夢の中の存在なのか分からないのです。

終盤になると、アンナとマーニーの関係が拗れてしまいます。

しかし、お別れのときにマーニーが「私のことを許して」と言うとアンナも「許すわ」と言います。

それからはアンナの前に、マーニーが出てくることはありません。

マーニーの生い立ちが明かされる

アンナは、湿っ地屋敷の近くで、絵を描いていた老婦人から、マーニーが実在の人物だったということを聞きます。

この老婦人は、マーニーの幼い頃の友達だったのです。

マーニーは結婚し、娘が生まれ、孫も生まれたのですが、娘夫婦は交通事故で死んでしまったのです。

幼い孫娘を引き取ったマーニーは、大切に育てました。しかし、マーニーもやがて亡くなってしまいます。

残された孫娘は養子に出されます。その孫娘こそアンナだったのです。

アンナの心のつっかえがなくなる

やがて養母がアンナを迎えにやってきます。そして養育費を貰っているということを、アンナに伝えます。

アンナは幼い頃の記憶が蘇ってきます。

そして、自分はマーニーに愛情いっぱいに育ててもらったということを、思い出すのです。

そして、アンナの心にあったつっかえは無くなるのです。

潜在意識にいるもう一人の自分

『思い出のマーニー』のストーリーと意味を理解するには、心理学について理解する必要があります。

潜在意識にいるもう一人の自分(インナーチャイルド)

心理学では、潜在意識の中に「もう一人の自分」が存在するという考え方があります。

生まれたときからの体験や抑圧された感情によって作り出されたものです。

普段は意識することはありませんが、行動には大きな影響を与えていると言われています。

アダルトチルドレンの文脈でいうなら、インナーチャイルド(内なる子供)と呼んでも良いかもしれません。

インナーチャイルドはマイナスの感情や、罪悪感を持っていることがあります。

すると「私なんて生まれてこなければ良かった」「愛されるべき存在ではないんだ」と、常に自分を否定し続けることになります。

潜在意識を解放するための催眠療法

この状態を癒すためには潜在意識を開放して、もう一人の自分と向き合うことが大切なのです。

そための方法として「催眠療法」があります。

催眠状態になると潜在意識のはたらきが強くなりますので、普段は忘れているようなことまで思い出すことが出来るのです。

催眠療法は日本ではあまり有名ではありませんが、米国や英国の医学会では治療法として認められています。

催眠にかかりやすい人の場合は眠ったような状態になり、まるで夢でも見ているかのように過去の記憶が蘇ってきます。

そしてその中で、過去の自分と向き合ったり、自分を許すことによって心の傷を癒すことができるのです。

アンナがアダルトチルドレンから再生する過程

ここからは、主人公のアンナがどのようにアダルトチルドレンから再生していくのか、ということを解説したいと思います。

マーニーの正体はお婆ちゃんであり自分でもある

『思い出のマーニー』の一番の謎というのは、マーニーの正体は誰なのか?ということです。

物語を最後まで見ると、マーニーはアンナのお婆ちゃんだったということは分かります。

しかし、物語の中に出てくるマーニーは、主人公アンナと同じくらいの年頃の女の子です。

マーニーは幽霊なの?と思う人もいるかもしれません。しかし、マーニーは幽霊ではありません。

マーニーは、アンナの潜在意識の中にいる「もう一人の自分」であり、幼少期のマーニーでもあるのです。

アンナは催眠夢を見ている

アンナは「催眠夢」を見ているのです。催眠夢とは、催眠誘導によって見せられる夢です。

通常の夢と異なるのは、見る内容をある程度コントロールできるということです。催眠にかかりやすい人であれば見ることは可能です。

アンナの場合、あの屋敷を見ることがスイッチとなって、催眠状態に入るのです。

そしてその中で、少女時代のマーニーに会っているのです。

アンナがなぜ少女時代のマーニーのことを知っているのかというと、一緒に暮らしていたときにマーニーが思い出話として語ってくれたからです。

なのでマーニーに会話をさせているのは「アンナの潜在意識にある記憶」です。

そしてアンナの潜在意識にある「もう一人の自分」はマーニーの姿を借りて、アンナに語りかけているのです。

マーニーはなぜ何度も「大好き」というのか?

マーニーがアンナに何度も「大好き」という言葉を言います。

これは潜在意識が「愛されていた」ということを思い出させるために言わせている、と考えることが出来ます。

アンナは事故や病気とはいえ、両親とお婆ちゃん(=マーニー)が幼い自分を残して死んでいったことに恨みを感じています。

それと同時に「自分は誰からも愛されていない」という自己肯定感の低さも持っています。

それによって、周りの人と上手く関係を構築することが出来ずにいるのです。

それを払拭させるために、潜在意識がマーニーをつかって何度も「大好き」というのです。

アダルトチルドレン再生のための最も重要なシーン

別れのシーンでマーニーは「許してくれるって言って」と言います。

これは、幼いマーニーを残していなくなってしまったことを「許して」という意味と考えられます。

そしてアンナは「もちろんよ、許してあげる」と言います。

ここがこの映画の最も重要なシーンです。

ここでマーニーを許すことによって家族への恨みは消え、心のしこりがなくなります。

アダルトチルドレンからの再生がなされたのです。

同時に周りの人間との関係にしっかりと向き合える準備も整ったのです。

養母を「母」として受け入れることができた瞬間

そして、最初に向き合うべき相手である養母がやってきます。

養母は「自治体から育てる費用の補助が出ているの」と伝えます。

アンナはこのことを知っていましたが、養母の口から話してくれたことで、わだかまりがなくなります。

マーニーのことを話してくれた老婦人に堂々と「母です」と紹介することからも分かります。

こうしてアンナは、自分自身で催眠療法を行うことで、自分のトラウマを解消し、アダルトチルドレンから再生することが出来たのです。

『When Marnie Was There』の意味

『思い出のマーニー』は内容が意味不明と酷評する人もいますが、私はとても心に響く映画だったと思います。

数ヶ月とはいえ、お婆ちゃん(=マーニー)と過ごし、愛情をたくさん注いでもらった事実があったというところに心が温まりました。

アダルトチルドレンの再生の物語として鑑賞すると、非常によくできた作品だということが分かります。

もちろんここで解説したことは私の個人的な考察に基づくものですから、原作者の意図とは違うかもしれません。

しかし、原題の『When Marnie Was There』は深読みすると「私を愛してくれたマーニーは確かにそこにいた」という意味に解釈できる気がします。

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