ウェルテル効果とはマスコミで自殺が報道されたときにそれに影響され後追いする人が増える現象のことです。(日本語では「連鎖自殺」と言います)
ゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』がその由来です。婚約者のいる女性を好きになってしまい叶わぬ思いに絶望して命を絶ってしまうというストーリーです。
この小説を読んで主人公と同じように自殺をしてしまう若者が増えたのです。そのため一部の国では発売禁止になったこともあります。
ウェルテル効果の反対の現象をパパゲーノ効果と言います。この2つについて解説します。
ウェルテル効果の特徴
ニューヨーク州立大学の社会学者ディヴィッド・フィリップスはニューヨークタイムズ誌に掲載された自殺の数と1947年から1967年までのアメリカの自殺者数を検証しました。
その結果、マスコミ報道が人々の自殺に関連しているということを証明しました。
そしてこの現象にウェルテル効果と名づけたのです。
他の研究者が後で行った調査でも同様の結果が得られています。
ウェルテル効果には以下の特徴があります。
報道方法について
報道の大きさや頻度が多いほどに自殺率は高まります。
またそういった情報にアクセスしやすいエリアに住んでいる場合も影響を受けやすくなります。
報道されてから数日から数週間で起こりますがセンセーショナルな報道が繰り返された場合は1年ほどその影響が残ることもあります。
年齢と性別
ウェルテル効果はどの年齢層でも起こり得ますが特に若年層に多いです。
若者の自殺の少なくとも5%が影響を受けている可能性があります。性別は男性よりも女性のほうが多いです。
また著名人の死に影響を受ける場合には本人との属性が近いほどにリスクが高まります。
方法まで模倣する
『若きウェルテルの悩み』に影響されて自殺した人達は主人公と同じ服装をして同じようにピストルを使いました。
このように報道された内容と同じ方法で命を絶つこともウェルテル効果の特徴の一つです。
ウェルテル効果が起こる原因
心が弱っているときに誰かが命を絶ったというニュースを目にすると「自分も」と思ってしまうことがあります。
特にその相手が自分と同じような境遇にいれば親近感が沸いてしまうのです。
本人が思い悩んでいたと知ると「あれほどの人間でも乗り越えることが出来なかったのだから自分も無理だろう」と考えてしまうこともあります。
また好きな芸能人などが自殺するとそれを嘆き悲しみ飲酒やドラッグに走ることがあります。
するとタガが外れて突発的に飛び降りたり手首を切ってしまうという可能性もあります。
この場合、普段から精神的に不安定だったかどうかはそれほど関係ありません。
他にも命を絶つことを魅力的な結末とみなしたり、生きているときには得られなかった共感を得られるといった思考がウェルテル効果を生み出します。
マスコミの自主規制
2008年以来、WHO(世界保健機関)はウェルテル効果の研究結果に基づいたメディア報道に関するガイドラインを公開しています。
その中には以下のような内容が盛り込まれています。
- センセーショナルに扱わない
- 当然の行為、問題解決法の一つであるように扱わない
- 手段や方法、場所について詳しく伝えない
- 写真や映像を用いるときは慎重を期する
- 著名な人の自殺を伝えるときは特に注意をする
- 遺された人に対して十分な配慮をする
- どこに支援を求められるかという情報提供をする
これらはあくまで指針ですから強制力はありません。
日本国内のテレビや新聞を見ていても守られているとは言えません。実際に日本でもウェルテル効果と思われる事例は発生しています。
マスコミ各社は社内規定を作っているようですが公開してないことが多いです。
Netflixのドラマ『13の理由』とウェルテル効果
2017年1月からNetflixで配信されている『13の理由』(13 Reasons Why)というドラマがあります。
自ら命を絶った少女がその理由をテープに残しそれを中心にストーリーが展開されていくというミステリーです。
人気シリーズなので見たことのある人もいるかもしれません。
しかしこのドラマについては精神科医や臨床心理士などからうつ病やウェルテル効果の発生に繋がるとして批判が起こっています。
ミシガン大学のヴィクター・ホン博士らが精神科救急病棟に緊急搬送された10代を対象に行った調査では半数が『13の理由』を視聴したことがあると答えていました。
そしてその多くがドラマの中で命を絶ったハンナ・ベイカーに自分を重ね合わせてしまったと話しています。
自分が自殺をしたいと思ったきっかけがこのドラマであると断定的に答えた患者もいました。
ネットの動画は1人で見ていることが多く精神的に不安定な状態だと突発的な行動につながってしまうこともあります。
動画以外にも個人のツイッターなどで共有されることでウェルテル効果が起きる可能性も指摘されています。
パパゲーノ効果とは
ウェルテル効果とは反対にマスコミ報道が苦境にいる人の死を思いとどまらせることもあります。
これをパパゲーノ効果といいます。
パパゲーノはモーツァルトの歌芝居『魔笛』の登場人物です。愛する女性を失い首を吊ろうとしますが童子に助けられ思いとどまりました。
ウィーン大学公衆衛生センターのトーマス・ニーダークロテンターラー博士たちは2005年1月から6月にオーストリアでの報道と自殺の関連について調べました。
その結果、逆境の中で死を考えた人がそれを乗り越えた話などを見ると自殺の抑止につながることが分かりました。
反対に専門家と呼ばれる人達が自殺について深刻に語ることは希死念慮を強めてしまうことも分かりました。
これは報道の自殺予防効果についての世界で初めての検証実験となりました。
マスコミがパパゲーノ効果によって自殺願望を持つ人を止めるためには困難を克服した人の話や相談できる場所を伝える必要があります。
現在は誰でも情報発信者となることができます。
不用意なツイートやリツイートがウェルテル効果のきっかけになり得ることを忘れないでください。
参考文献
・Niederkrotenthaler T, et al,(2010)Role of media reports in completed and prevented suicide: Werther v. Papageno effects.
・David P. Phillips,(1974)The Influence of Suggestion on Suicide: Substantive and Theoretical Implications of the Werther Effect.