人間は乳児期に母親(養育者)との間に絆が生まれることで他者への信頼を獲得するようになります。
この時期に何らかの理由により分離が起こると他者への信頼感を育むことが出来なくなることがあります。
そして成長したあとも性格の偏りが生じたり安定した人間関係が築けないという問題が生じてしまう可能性があります。

分離による反応
生まれたばかりの乳児は他人の区別がつかずに誰に対しても同じような反応を示します。
生後12週から6ヶ月頃までの間になると特定の相手に対してよく反応するようになります。笑ったり声を掛けてみたりするのです。その相手はいつも一緒にいる相手、特に母親であるケースが多いです。
そして6ヶ月を過ぎたあたりから特定の相手に愛着を持つようになり常に一緒にいたいと思います。姿が見えなくなると泣き出すこともあります。
母親は乳児のために授乳や排泄の世話をします。この行為は生きるために必要なこと以上の意味を持っています。
乳児は母親から世話をされることで外の世界に対する信頼感を獲得していくのです。
このとき何らかの理由により母親から離され絆の形成がなされないと他者に対する信頼感を得られないまま成長してしまうことがあるのです。
イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィは入院中の子を観察し母親から離された子の態度を3段階で説明しています。
最後の段階までいくと心の傷(トラウマ)が残るとしています。
母親から離された子はまず泣き喚きながら母親を求め周囲の人間に抗議する態度を見せます。分離不安という状態です。(抗議の段階)
そのうち騒ぐことをやめて絶望したような態度を見せます。食欲がなくなったり引っ込みがちになります。表面的には諦めたように見えますが内心では求めています。(絶望の段階)
やがて食欲や明るさを取り戻しはじめます。(離脱の段階)
離脱の段階までの期間は個人差がありますが遅い子でも6ヶ月ほどでこの段階に進むといわれています。(早い子では数週間)
離脱の段階の子供は母親と離れてしまった悲しみを乗り越えたように見えるかもしれませんが大きなトラウマを抱えることになります。
3段階のうちの最初の2段階の状態(抗議の段階・絶望の段階)で再会した場合、子は母親にくっつき喜びます。
しかし最後の段階である離脱の段階になると再会してもくっつくことなく母親のことを忘れているような態度を見せます。この段階までいってしまうと絆を復活させることが不可能となってしまうのです。
成長後の問題
長期間におよぶ母親との離脱はいくつかの問題を引き起こします。
人間は母親(養育者)との間に出来た絆を他者との関係でも援用します。母親との間にしっかりとした絆が形成されていれば他者も信頼に値するべき存在と捉え安定した関係を作ることができます。
しかし母子間の信頼関係が形成されないまま成長してしまうと大人になった後に性格の偏りが出たり他者との人間関係において支障を来してしまうことがあります。
また非行に走ったり知能の発達に影響が出てしまうこともあります。
乳児期に必要な絆は母親でなければ作れないわけではありません。
父親や里親でも作ることは可能です。親子関係にない施設の職員との間でも絆の形成は可能です。
乳児期に養育者との強い絆が形成されれば「他者は信頼するに値する存在である」という感覚を持つことが出来ます。